郡上一揆


監督:神山征二郎
キャスト:緒形直人、岩崎ひろみ、古田新太、前田吟、山本圭、篠田三郎、林美智子
2000年 日本

あらすじ:江戸時代三大一揆中最大規模足かけ5年に渡る死闘の末、農民が勝利を得たという他に例を見ない唯一の農民一揆を空前絶後のスケールで描いた感動秀作!

評価 ★★★★★

 個人的に、時代劇の最高傑作だと思っている。
 まず、時代考証がきっちりしている。女優はお歯黒を付けているし、登場人物はきちんとその地の方言を使っている。細かな歴史用語や、服装風俗もしっかりしているし、馬も小型の馬(木曽馬か?)を使っている(老中の駕籠行列の時はサラブレッドが使われていたけど、それも史実通りなのかな?)
 地元が全面的に協力したために、エキストラの量は半端無い。邦画でこれだけの人数を動員したのは数えるほどしかないんじゃないだろうか。それだけに強訴シーンの迫力は圧巻。
 鬼気迫る演技を見せてくれる役者陣に、自己犠牲という非常に感動的なテーマで描かれたストーリー。申し分なし。やや、庄屋や殿様視点での描写がかけていたのが不満。単純な勧善懲悪物ではなくもう少し、別視点で物語を描いて欲しかったのだが、農民一揆がテーマ名だけに致し方ないか。一昔前の映画なら、これを左翼的な反権力映画として思想面が表に出る場合が多いのだが、この映画はそうした押しつけがましさは感じられない。

 白飯を出されて「ごっそう(ごちそう)だな」と口にするほどの貧農ぶりであるが、この映画を見る限り、江戸時代の百姓というのはそれなりに恵まれていたのだと感じる。
 どれだけ虐げられても、それを訴える手段が豊富に存在する。強訴、直訴、箱訴。命がけではあるが、その行為によって藩は取りつぶしとなる。命をかける価値のある行為が存在しているだけ恵まれている。
 江戸に数ヶ月滞在し、その滞在費を頑張れば稼ぐことができるのも恵まれているのだろう。
 他の時代や国では、訴える手段もなくただ黙って死んでいくしかなかったり、暴力や革命によってでしか解決できなかったりする分、非常に平和的で民主的でもある。もちろん現代とは比べものにならないが。

 農民というと純朴でありながら非常に狡猾である。そうしたイメージで描いたのは黒澤明の「七人の侍」であるが、この作品は純朴さのみで描かれている。中には藩との駆け引きを主張する人物もいたが、脇役にしか過ぎない。
 自分のみを犠牲にして、下手すれば死罪となる訴えを行う。そして御駕籠訴様と、訴えを行った物に手を合わせる百姓達。
 自己犠牲と、それを賞賛する純朴たる百姓。
 ラストシーン。一揆の首謀者達が晒し首とされても目を背ける物はいない。皆が手を合わせ神か仏かのように拝む。
 岩崎ひろみも、どす黒くなったグロテスクな夫の首に嫌悪感も悲しみも表さず、自分が夫の妻であることに誇りを持つような表情を浮かべる。子供に対しても目を背けさせようとは決してさせなかった。対照的に妹は眉をしかめて悲しそうにしていたのが、岩崎ひろみの良妻賢母ぶりが際だっている。
 村のために命を投げ捨てた英雄。「七人の侍」のような、村のために山賊に殺された侍達に弔いを見せようとしない狡猾な農民達とは対照的である。

 竹やりをもって突撃する、そんな一揆のイメージとはほど遠く、真剣でチャンチャンバラバラという時代劇のイメージともほど遠い。史実に忠実でありながらエンターテイメントとして完成度の高い非常に優れた作品である。

 ただ、緒形直人の顔が山崎邦正に見えるのだけが・・・・。

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