百万円と苦虫女


監督 タナダユキ
キャスト 蒼井優、森山未來、ピエール瀧、佐々木すみ江、嶋田久作
2008年 日本

あらすじ ひょんなことから前科持ちになってしまった鈴子が、バイトで100万を貯めて実家を出る。いろんな場所を訪れては100万を貯め、次の土地へと旅立つが……。

評価 ★★★☆☆

 陰気でウジウジした女が主人公。この女、変。犯罪起こしそうなぐらい変(実際に起こしたが)
 だいたい、仔猫を捨てられたぐらいで同居人の荷物を全部捨てるってはっきりいって異常だ。血がのぼって発作的にやったのなら分かるけど、ネコを捨てられたのが判明した時には同居人は部屋にいたから、荷物を捨てたのは少なくとも数時間後、もしくは次の日ってことになる。いくら腹が立っても時間が経てば、あんまり過激な行動はしないでしょうよ。
 なのに、この女は、荷物を全部捨てる。相当な量があったから、結構な力仕事だったはずだがそれでも全部やり遂げた。自分なら、途中で嫌になって何やってんだろ、とか思うな。
 単なる怒りっぽいだけじゃなく、腹の底に怒りを溜めておいて、しかるべき時に爆発させる、しかも妥協はしないという、大きな犯罪を犯しそうな人間だ。
 元クラスメイトと出会ったときも、前科持ちをからかわれてクソミソに侮辱されるが、かんしゃく起こして暴力を振るう。そりゃあ気持ちは分かる。だけど、小学生ならともかく、20歳を越えたいい大人が、悪口に対して暴力を振るうのはいかんでしょ。手をあげた方が負けだよ。
 だけど弟に対して、恥ずかしいことをしていないと、しれっと自己弁護。あこは適当に聞き流すのが、恥ずかしくない行動で、暴力を使っちゃうのは恥ずかしい行動だと思うんだけどなぁ。
 このへん、自分は絶対的に正しくて、他人はバカだと思い込む、典型的なネクラ人間の思考。

 怒りを爆発させるとき以外は、自主的に動くということをほとんどしない。まわりに流されるだけ。家を出て行こうと決心したきっかけだって、食事中、家族間で言葉が入り乱れてわけの分からん会話になってかんしゃくを起こして、ついつい口走ってしまっただけのこと。
 アパートを借りるときも、家を出て行ってからの行動も大半が、自分の意志ではなく他人に無理矢理流されてのこと。

 近くにいたら絶対友達になりたくないタイプだったりするけど、映画にすると魅力的に映るのがあらまあ不思議(蒼井優がキレイだからか?)
 細すぎて折れそうな腕をはじめ、弁当の裏にノリが引っ付いてたりと悲壮感をおおいに漂わせ、俺が助けてやらねば、思わせる。朝礼で倒れるタイプの女性でもあるね。

 とまぁ、主人公の女性は非常に魅力的なんだが脚本がいまいち。
 この映画、四編に別れている。実家編、海の家編、桃娘編、ホームセンター編。

 海の家編いらないよ。ラストシーンに象徴されるように、人生そんなにうまくいかないよってのがこの映画のテーマ。自分の意志はちゃんと存在してるんだけど、周囲のせいでそれを伝えることができない。結局、押し切られて後で苦虫を噛み殺したような嫌な表情をしてしまう、という感じ。
 ルームシェアの相手が彼氏持ちでも、それを愛想笑いで済ませるし、桃娘なんかやりたくなくてもそれを強く主張できない(最終的にはかんしゃく起こして主張したけど)、金のために付き合ってる男にも愛想笑いで付き合いを続けなきゃいけない、とあるのだが、海の家編だけはそうした、自分の意志を突き通せない、という部分がほとんどない。
 アプローチをかけてくる男から、逃げるようにして去っていっただけ。この海の家編だけ浮いている。無くてもよかった。いや無いほうがよかった。
 海の家編では、主人公の男嫌いを描写してる。いくら男が言い寄ってきても、絶対に心を開かないし、敬語を使い続ける。男性不信であると説明しているようなもの。
 なのに、ホームセンター編で男から告白されてあっさり自分も好きだと、返す。で、その足で男の家へ行きベッドイン。海の家編の男性不信はどこいった?
 序盤のルームメイトの荷物捨てたときに、セックスしてたら民事事件になると聞かされると、ヤッときゃよかった、と呟くぐらいだから意外に性に奔放なのかもしれない。

 弟からの手紙に涙するのも首を傾げた。ありゃあエピソードの順番間違えてる。弟はいじめられてたのに逃げずに、戦うことを選択した。
 一方、女のほうは男が金目当ての付き合いだと気付いているのに、言い出すことができない逃げるばかりである。それで自分の不甲斐なさに、涙した、と解釈したいんだけど、手紙が来る以前に別れ話を持ち出してるんだよなぁ。
 じゃあ、あの涙はなんなのっと。弟が立派になって泣いたわけでも無いだろうし・・・。

 ラストシーンは見事。映画全体の人生そんなに上手くいかないんだよ、というテーマを完璧に表現してる。彼氏が、旅立ちを止めに来てくれると考える女だけど、そう思い通りはいかない。来るわけないか、と呟く女の表情にはすがすがしさを見て感じ取れる。うまくいかないのが人生だ、と言うような表情。序盤の陰気でネクラな女の印象とは180度変わっている。様々な場所を旅して、色んな人間と出会ったことにより大きく成長したのだと窺わせる演技だ。この主人公の女、これ以降苦虫を噛み殺したような表情はしないようになったのではないだろうか。

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