アメリカン・ビューティー


監督:サム・メンデス
キャスト:ケビン・スペイシー、アネット・ベニング、ソーラ・バーチ、ミーナ・スヴァーリ、ウェス・ベントリー 
1999年 アメリカ

あらすじ:中年男レスターが、ある日娘の親友に一目惚してしまい…。隣家に新しい住人が来た事で崩壊していく家庭をシニカルに描く。

評価 ★★★★☆

「アメリカン・ビューティー」アメリカの美。「美」を描いた映画。
 登場人物は皆、アメリカのどこかにいそうな平凡な人々。胸の小ささに悩み、両親とギクシャクしてる典型的なティーンエイジャー。妻や上司に見下されても家庭のために我慢を続けてきた中年男。やり手のキャリアウーマンとしては働くが実は全く商才の無い妻。
 隣家は、頑固な退役軍人にヤク中の息子。
 ティーンエイジャーの娘は、美人のヤリマン女と親友。
 ホームドラマにでもなりそうなありふれた人物設定だけども、それぞれの「美」の価値観が普通とは大きく違っている。
 主人公ケビン・スペイシーは、娘の親友に「美」を感じ、妻は不動産の王様のような金と力に「美」を感じ、隣人の息子は風に舞う紙袋に「美」を感じ、娘の親友は文字通り外見的な美しさを「美」と感じ自分が外面的に美しいからこそ男性が寄ってくるのだと嘘を吐く。たりとそれぞれ、心の内に秘めたる「美」は様々。
 表向きはありふれた人物達だが心の中は独特である。
 また、最終的には彼らは「美」を手放すことになってしまう。

 主人公は、娘の親友を初めて見たとき、妄想の世界に突入し、服をはだけさせ胸をさらけだそうとしたとき乳房が見える直前にバラが飛んだ。ラストシーン、娘の親友との性交が果たせそうだというとき、あれほど出し渋った乳房を露わにさせたがそこからバラは飛ばない。そして彼女は処女だということを告白する。女の色気に「美」を感じていたが、実は単なる純真なティーンエイジャーに過ぎなかったことが判明し、主人公はそれを「美」と感じなくなった。

 妻は、不動産王との不倫がばれ距離を置かざるを得なくなる。「美」を失った妻は夫に殺意を抱くが、最終的には夫の死を嘆き悲しむ。本当の自分の「美」は夫だったのだ、と。

 隣人。ゲイに異常なまでの嫌悪を抱いているが、これは同族嫌悪であった。自分が潜在的にゲイだったからこそ、同じゲイを憎んだ。息子がゲイだと知って追い出すが、それを悔い隣家の主人公に自分をさらけだしゲイという「美」を求めた、が拒絶された。

 隣人の息子は、風に舞う紙袋を「美」に感じる変人。主人公の娘が窓辺でトップレスになっても、彼のビデオカメラは乳房を微塵も写そうとしない。むしろ乳房を避けるようにして、胸より上部をアップで撮ろうとする。

 娘の親友は、自分がセックスアピールに優れていることを誇示する。それが自分の美しさを示しているのだと固く信じているのだ。言葉通りの「美」であるが、主人公との性交の直前に、処女だとの告白。彼女は自分の「美」がまやかしだと主人公に知られるわけである。

 こうした「美」に固執し、「美」を手放した人々の惨劇。アメリカの原題社会の闇なんてものは日本人には理解できない。ただし、美しさというものは万国共通であると信じている。その「美」は容易には手に入らず、「美」のために容易に破滅へと導かれる、異様な恐怖を感じさせる。

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